この世界には様々な矛盾、歪み、問題があります。
一方では飢餓に苦しんでいる人達がいれば、一方では食べ過ぎによる肥満で悩んでいる人がいる。
生まれた国や家庭が違うだけで、貧困・虐待・紛争などで苦しむ子供達がいる。
様々な難病で苦しんでいる人がいる。
そのような多くの社会の問題を法人の事業として解決しようとする試みを社会事業といいます。
一般的な法人である株式会社は利益を追求することを目的とする団体ですが、社会事業の場合は、社会の問題を解決することを目的とする団体なので、利益追求を目的としません。
ただし、無償でボランティアなどを行う慈善事業とは違い、ビジネスとしてきちんとお金を稼ぎ、その儲けたお金で代表者やスタッフに給料を払います。
無償でのボランティアの場合、生活を維持するための本業を別に持つ必要がありますが、社会事業では、きちんとお金を稼ぎ給料を支払うことで本業としてきちんと生活できるようにするという面が無償ボランティアなどの慈善事業と違うところです。
日本ではまだまだ社会事業に対する認知も低く、「寄付やボランティアなどの社会貢献は人知れずこっそりと無償でやるべき」というような論調が強いですが、そのような、取り組む人々の善意や自己犠牲に頼る割合が大きい支援だけでは不安定な側面も否めません。
社会事業の場合、それに取り組む人々が専業として働き、それだけで生活できるようになることで、社会問題を解決することに集中して取り組むことができるようになり、比較的、安定した持続可能な活動が可能になるというメリットがあります。
世界の『食の不均衡』を解決する
『「20円」で世界をつなぐ仕事』の著者である小暮真久さんは、世界の『食の不均衡』を解決するための団体『TABLE FOR TWO(略:TFT)』というNPO法人の事務局長を務めている方です。
世界中には、貧困などにより満足に食べ物を食べられない人々がたくさんいます。
(全世界の約67億人のうち10億人が食事や栄養を満足に得られない貧困状態にあるとのこと。)
その一方、日本やアメリカなどの先進国では、食べ過ぎによる肥満や生活習慣病に悩んでいる人がいます。
このような『食の不均衡』を解消し、貧困状態にあり満足に食事や栄養を得られない人々に十分な食事を提供できるようにし、食べ過ぎで悩んでいる人々にヘルシーで栄養バランスの整った食事を提供することで、両方に健康になってもらうようにしようというのが、『TABLE FOR TWO』の活動です。
具体的には、社員食堂を持っている企業や団体と提携し、社員食堂のメニューに通常より低カロリーで栄養バランスの整った特別メニューを加えてもらい、その特別メニューの価格には20円上乗せして設定します。
その20円はTFTを通じて、アフリカに送られ、現地の子供達の給食費に充てられるという仕組みです。
20円はアフリカの子供達の給食費1食分に相当し、TFTの特別メニューを選んだ人は、ヘルシーな食事をして健康になりながら、アフリカの子供達に給食を贈ることができるという一石二鳥の仕組みになっています。
普通にランチを食べることがそのまま社会貢献になるので、面と向かって寄付だ募金だ、と言われると思わず構えてしまう人も、抵抗なく参加することができます。
いいことをしながら自分自身も健康になれるので、これまでのボランティア活動にありがちだった義務感や心理的強制といった重苦しさがないところも、TFTの活動が多くの人に支持される理由になっています。今、まさにカツ丼の大盛りを食べようとしている人のところに走って行って、その耳元で「あなたはアフリカでお腹を空かしている子どもたちのことを考えないのか!」と大声で言ったところで、言われた人は嫌な気持ちになるだけでしょうし、食べようとしていたカツ丼だっておいしくなくなってしまいます。
こう言って怒る人も、まったくの善意なのでしょう。でも、こんなふうに「いいことをするべきだ!」なんて言われなくたって、誰の心の中にも、「いいことをしたいという気持ちはあるのです。」ただ、皆その方法が分からなかったり、素直に気持ちを出すことが恥ずかしかったりするだけなのです。
だから、「いいことをするべきだ!」と言うのではなく、「こうすればたいして無理をしないでいいことができます」「あなたの気持ちをこういう形で届けますよ」、そう言えるだけのしくみを用意すればいい。そうすれば、みんな喜んでその仕組みを使ってくれるはずです。
社会起業家というのは、そういうしくみをつくる人なのだと、僕は思っています。
自分にとって仕事とは?働くとは?
この本では、TFTの活動の紹介、社会事業とはどういうものか、社会起業家として生きるとはどういうことか、社会事業に取り組んでいてよかったこと、つらかったことなど、実践者ならではの具体的な思いが書かれています。
世のため人のためになる仕事をしたい、という想いを実現する社会事業という新しい仕事が日本でも生まれ、認められるようになってきています。
地球上で起きているさまざまな矛盾や歪みに対して漠然とした不安を感じながら生きるのではなく、それらの課題解決に積極的に関わっていくことができるようになっているのです。
そして、それだけではなく、著者自身が社会起業家となるまでにやっていた仕事、その不満点や限界、自分はどんな仕事がしたいのか悩んだこと、TFTとの出会い、なども丁寧に書いてあり、著者が辿ってきた悩みや思いを通じて、僕自身、
「自分にとって仕事って何なのか?」
「どのような仕事をすることが自分にとって大事なのか?」
「自分にとって働くってどういうことか?」
など、仕事、働き方などについてもう一度しっかり考えるいいきっかけとなりました。
「自分のやっている仕事は社会の役に立っているのだろうか?」
「もっと世のため人のために働くことはできないのか?」
「もっとこの世界をよくすることはできないのか?」
などの思いを持っている方はぜひ一度、読んでみてほしいと思います。
若い世代の人たちは、社会事業に取り組みたいという強い思いがあるのなら、ぜひともその思いにフタをしないで欲しい。
「その想いは、仕事にできる」
そのことを知って欲しいと想うのです。
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