法人化を検討中の個人事業主の方へ※法人成りのデメリットをまとめてみたよ。

仕事術

先日書いた「法人化の大きなメリット。『出張手当』の節税効果がスゴイ!」という記事がなかなかの反響をいただくことができました(*^ω^*)
やっぱり個人事業主の法人成りとか、節税とかにはみなさん興味津々なんだなあと思った次第。

なので、調子にのって今回も個人事業主やフリーランスの方向けの法人化についての記事を書いてみたいと思います。
ただ、今回はメリットではなく、法人成りのデメリットについてです。

法人成りのデメリットをまとめてみる

法人化してから業績が悪化しちゃうと結構しんどい

税理士の顧問料

個人の場合の確定申告等の税務手続きは、面倒ですけど、まあ特に簿記の知識のない素人でもできます。
ですが、法人の場合、帳簿つけや決算手続き、法人税などの税務申告書作りなど作成しないといけない書類も増えますし、複式簿記できっちり記帳しないといけないので、ちょっと会計の素人が自力でやるには厳しいです。
個人の場合は確定申告時期になると無料相談などのサポートもありますが、法人対象の無料サポートはほぼありません。

制度的には税理士に頼まず自力でやっても問題はないので、自分でしっかり会計の勉強をすればできるようにはなると思います。
ただ、その時間と労力をかけるなら、本業の事業の方に使った方がいいのではないかと思います。
※その知識と経験が本業の方にも活かすことができるという場合(サイトやブログを作る等?)はやる価値はあるとは思いますが・・・。

ですので、現実的にはほとんどすべての方が税理士に税務処理をお願いすることになります。

税理士の顧問料は、地域や税理士によっても違いますし、会社の規模や自社でどの程度の処理まではするのか?などによっても異なりますが、月額数万円の費用はかかります。
あとは、税理士とどのような契約をするかにもよるでしょうが、決算期には決算処理手続き料、年末には年末調整の費用など毎月の顧問料にプラスしてかかる費用もあります。

法人住民税(均等割)

個人の場合、年間の事業が結果的に赤字の場合、所得税や事業税などの税金は払わなくていいですね。
法人の場合でももちろん、赤字決算の場合、法人税、法人事業税などの税金は払う必要はありません。

ただし、法人住民税の均等割分は赤字でも必ず払わなくてはいけません。
登記した自治体によっても違いますが、だいたい年間7~8万円程度です。

税理士への顧問料と法人住民税はたとえば会社の業績が悪化しても支払う必要があるため、売上が落ちてしまった年は非常に重い負担となります。
税理士の場合は、相談すれば顧問料を一時的に下げてくれたり、支払いを待ってくれたりは、もしかしたら交渉次第で対応してくれるかもしれませんが。

業績が悪化した場合、個人よりも税負担が重くなる場合がある

個人が法人成りする理由のひとつに個人の累進課税の最高税率よりも法人税の税率の方が低いからってのがあります。

個人の累進課税は最高で課税所得の45%になります。
これに個人住民税の10%を加えると55%、さらに個人事業主の場合、年290万円以上の課税所得がある場合、事業税がかかってきます。
税率は自治体・業種にもよりますが、3~5%です。
なので、最高で60%にもなります。

ただし所得が少ない場合には最低で5%、住民税10%を加えて15%というのが個人事業の場合の最低税率です。

参考)平成27年分以降の所得税の税率(※No.2260 所得税の税率|所得税|国税庁

課税される所得金額 税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円を超え、330万円以下 10% 97,500円
330万円を超え、695万円以下 20% 427,500円
695万円を超え、900万円以下 23% 636,000円
900万円を超え、1,800万円以下 33% 1,536,000円
1,800万円を超え、4,000万円以下 40% 2,796,000円
4,000万円超 45% 4,796,000円

ですが、法人の場合は個人のように累進課税ではなく一定です。

資本金1億円未満の中小企業には軽減税率が採用されており、法人税は課税所得800万円以下の部分には15%、800円超の部分については25.5%となっています。

参考)表3-1 法人所得に対する税負担(3.3 法人所得課税の概要(法人税・法人住民税・事業税) – Section 3. 税制 – 日本での拠点設立方法 – 対日投資情報 – ジェトロ

課税所得金額の区分 400万円以下の部分 400万円超800万円以下の部分 800万円超の部分
法人税  15.00%  15.00%  25.50%
復興特別法人税  1.50%  1.5%  2.55%
法人住民税 都道府県民税  0.75%  0.75%  1.27%
区市町村民税  1.85%  1.85%  3.14%
事業税  2.70%  4.00%  5.30%
地方法人特別税  2.19%  3.24% 4.29%
総合税率  23.99%  26.34% 42.05%
実効税率  22.86%  24.56% 38.37%

この税率が一定というのは売上が多いときは個人の税率よりも低くていいのですが、業績が悪化して売上が下がってしまっても一定になってしまうという点があります。
もちろんそうなった場合、役員報酬で個人に所得を移して、法人は赤字決算にしてしまえばいいのですが、なかなかそううまい設定にするのは難しいです。

役員報酬の金額設定が難しい

法人成りする節税メリットの大きな理由のひとつが、役員報酬として法人から自分に給料を支払うことで給与所得控除が入り、実質的に課税所得を圧縮できるという点があります。

法人化して、自分の会社から社長である自分に対して給料を払っても、この給与所得控除は適用されます。
ですので、先ほどの500万円の例でいくと、法人からは500万円の役員報酬を支払ったとして、500万円が経費になり、法人税が安くなります。

さらに、個人の収入は、給与所得控除によって、346万円の課税所得となります。
154万円の所得を浮かすことができるわけですね。

これが、個人事業主の場合だと、給与所得控除は使えず、500万円丸ごとにに所得税や住民税がかかってくることになるので、かなり大幅な節税ができます。

個人事業主が法人化した方が節税になるベストなタイミングっていつ?
個人事業主の方で、自分の場合、法人化した方が節税になるのだろうか?、法人化するタイミングっていつがいいんだろう?って考えている方って多いと思います。 僕自身、個人事業主から法人成りした経験があるので、僕の経験も踏まえながら法人化するベストな...

で、理論上はもちろんここに書いてある通りなんですが、役員報酬の金額設定っていつでも自由に設定できるわけではなく、一度決めた給与は基本的に期中で変更することができません。
つまり1年に1回しか決められません。
しかも期首から3ヶ月以内に決めないといけません。

なので、年度が始まって3ヶ月の売上などから今期の業績を予想して、役員報酬の金額を決めないといけないわけです。

個人事業主から法人成りしたような小さな会社の場合、この役員報酬の金額設定が節税において非常に大きな割合を占めているので、この金額設定はめちゃくちゃ大事です。
この役員報酬の金額設定をミスってしまうと、おもった以上に法人に利益が残ってしまってあまり節税できず税金をがっつり支払う羽目になったり、逆に役員報酬を大きくしすぎると、法人は赤字になり、個人の方には現金でもらってもいない役員報酬に対する所得税・住民税などを納める必要が出てきてしまったりします。

法人ならではの負担がでてくる

社会保険の加入義務がある

個人事業主の場合、常時雇用している従業員が5人以下の場合は社会保険の加入義務はありませんが、法人の場合、従業員がおらず社長の自分だけという1人会社でも社会保険に加入する義務があります。
よく厚生年金は会社が半分負担してくれているからお得なんて言われますが、自分の会社の場合、会社のお金も個人のお金もほぼ一緒の財布って感じなので、個人にかかってくる厚生年金も会社で負担する厚生年金も結局は自分のお金です。

年金はいまの現役世代が老人になったときにちゃんともらえるのか?なんて議論もありますが、基本的には払った金額に応じてもらえる金額も増えるという性質のものなので、多く納めていればその分もらうときに金額は増えます。

ただ、それにしても社会保険の料率ってめちゃくちゃ高いので、かなりの負担となります。

だいたいですが、役員報酬の金額の27%程度と思っておいていいです。
役員報酬を50万円に設定した場合は、個人負担分と会社負担分と併せて、135,000円(健康保険料+厚生年金保険料)程度ですね。

社会保険料(厚生年金保険料・健康保険料)の自動計算ツール
本計算システムは、おもに中小企業の従業員が加入する協会けんぽ(全国健康保険協会)の適用事業所の社会保険(健康保険および厚生年金保険)の保険料額を、自動計算するものです。

ちなみに社会保険は、従業員がいなくても加入義務がありますが、罰則はありません。
また役所の縦割り行政という性質もあってか(社会保険事務所が税務署や法務局と連携していない)、いままでは社会保険に加入していない法人も非常に多く、基本的に放置されていました。

ですが、平成27年10月から始めるマイナンバー制を控えているのと、年金の未納率上昇や少子高齢化による資金不足などもあり、社会保険事務所は本気で「社会保険未加入の事業所をゼロにする!」と動いています。

なので、今までは法人成りしても「従業員はいないし自分だけだから」と、社会保険には加入せず、国保と国民年金で行くよ、なんて方も多かったのですが、今後はたとえ1人会社だったとしても、社会保険未加入のままというのはかなり厳しいです。

会社設立や引越に伴う移転、役員追加など何をやるにもお金がかかる

会社設立の手続きは自分でやろうと思えば自力でできます。
ですが、たとえ自力でやったとしても法人登記費用として20万円程度かかります。

また、引っ越しすることになり、会社の本店所在地を変更せざるを得なくなった場合も、本店所在地の移転の手続きが必要で、この場合も数万円の費用がかかります。(同じ法務局の管轄内は3万円、管轄外の場合は6万円)

ほかにも結婚して配偶者を役員に追加しようという場合でも、役員追加の登録費用で1万円程度かかります。

さらに上記費用を自力でやれば実費だけで済みますが、司法書士に代行手続きを頼むと司法書士に支払う手数料もかかってきます。

こんな感じで法人の場合、何をやるにも登録免許税(印紙代)などの名目で国にお金を支払う必要があります。

会社のお金を自由に使えなくなる

1人社長の場合、個人の財布と会社の財布がごっちゃになりがちです。
とはいえ、何も考えずに会社のお金を個人的な消費に使うことはできません。

1人会社であっても個人と法人は法的には別人格という扱いなので、たとえ実質的に自分のお金であっても、個人で使うためには役員報酬や賞与などの名目できちんと個人にお金を移さないといけません。

たとえばものすごく単純にいうと、役員報酬が月30万円にしていたとして、生活費や趣味のお金などプライベートな支出で50万円の会社のお金を使った場合、差引20万円のお金を会社から借りたという処理になってしまいます。
で、会社というのは利益を追求するのが存在目的となるので、たとえ社長に対してであっても、お金を貸す場合は利息を取らないといけなくなります。

そうなるとその利息分、会社の売上が上がってしまいます。
これが第3者に貸した場合、ちゃんと利息分も回収するので、売上が上がっても別にいいんですが、自分相手なので、結局、帳簿の上だけで売上が上がってしまうということになります。

保険や銀行など法人用になると高いし使いづらい

たとえば、僕は三菱東京UFJ銀行の法人口座を持っていますが、UFJの個人用のネットバンクは超使いやすいのに、法人用のネットバンクであるBizSTATION(ビズステーション)はあほみたいに使いづらいです。
たぶん大企業も利用できるようにああいう仕様になっているんでしょうが、うちのような個人みたいな法人には個人用のネットバンクを使わせて欲しいです。

しかも月額1728円の有料です。
そのくせ、ネットバンクのくせになぜか土日祝とか深夜とかは時間外とかでログインすることができません。

でもってUFJって個人の場合、UFJ同士の振込って振込手数料無料ですけど、法人からの場合有料です。
ほんと使いづらいし、高いしでいいことありません。
※その点、楽天銀行は法人でも個人でも同じシステムなので使い勝手が良い。それでも法人口座になると楽天銀行同士の振込でも振込手数料がかかったり(数十円だけど)、月何回までは振込手数料とか引出手数料が無料になるハッピープログラムの適用はなかったりと全く同じにはなりません。

こんな感じで世の中の物やサービスなどは法人用になると、料金が高くなり、使いづらくなる傾向があります。

銀行以外にも、自動車保険とかクレジットカードとかですかね。

で、経理的には、法人名義でも社長の個人名義でも問題ないので、特別な理由がない限り、わざわざ法人用の保険とか銀行とかクレジットカードとかを持つ必要はないかなあと思います。

よく言われる法人成りのデメリット。これ本当?

税務調査のリスクが増える?

法人化すると3年に1回とか4年に1回は必ず税務調査が来るようになるとよく言われます。
これは個人的にはどうだろうなあ・・・って感じです。
(うちはまだ税務調査が来たことはないけど、まだ4期目なので微妙)

個人・法人というよりも「がっつり儲けてるかどうか?」ってのがポイントなんじゃないかな?と思います。

税務署ってのは、税務調査に入るという労力をかけるなら、できるだけ多く税金を持って帰りたいという目的があります。
なので、たとえ法人であってもカツカツで儲かっていない会社に税務調査に入るメリットは少ないです。

あと、税務署には個人部門と法人部門があって、地域によって個人部門の方が活発なんていうところもあるみたいです。
たとえば兵庫県の芦屋税務署(六麓荘があるとこね!)なんかは会社は少なくて、個人のお金持ちが多いから(たぶん昔からの土地持ちとか?)、個人事業主でがっつり儲けてると税務調査に入られやすいなんてことを聞きます。
※あくまで噂レベルなんて真偽のほどは不明です^^;

あとは例年と比較して急激に数字が伸びたりすると目をつけられやすいとかも聞きます。

税務署も管轄内のすべての会社を順番に回っているわけではなく、怪しいところ、税金をがっつり搾り取れそうなところから、優先的に調査に入っているので、単純に法人になると税務調査のリスクが増えるから危険!ってわけでもないと思います。

交際費が全額経費にならない?

いままでは資本金1億円以下の中小企業の場合、年間600万円までは交際費を損金算入できていましたが、そのうち10%が定額控除額として損金不算入とされてきました。
つまり年間100万円の交際費を使った場合、経費にできるのは90万円分だけだったわけです。

これが交際費が全額経費にならないと言われている由縁です。

ですが、平成25年税制改正により「中小法人の交際費課税の特例」が拡充され、交際費にできる上限が年間800万円までに引き上げられ、さらに10%の定額控除額も廃止され、800万円まで全額損金算入できることになりました。

ですので、現在は「交際費は全額経費にならない」ということはなく、全額経費となります。(年間800万円まで)

まとめ

以上、法人成りのデメリットをまとめてみましたが、いかがでしたでしょうか?

こんな感じで色々と法人化にもデメリットがあるわけですが、このようなデメリットを上回るメリットを感じることができるなら法人成りを検討してもいいのではないでしょうか?

コメント

  1. 通行人 より:

    RAMDISKについて調べていてこちらに漂着しました。

    税理士顧問料についてですが、遠い親戚で3万/月、決算は4倍の12万でした。
    リーマンの時赤字が続いたのと、一通り複式簿記のやり方や処理科目を覚え、
    質問もしなくなっていたこと、商社なので製造原価など複雑な処理がないことで、
    1万/月にしてもらえました。まぁ、遠いとはいえ身内だからでしょうけど。

    税務調査については、事業性個人としては規模が大きい?10人超程度の会社の場合、
    ほぼ3-4年に1回きてましたが、本店を事業所・人口のすくない田舎から、
    規模の大きな会社・人口の多い都市部へ移転したら15年きませんでした。
    移転と同時期に設立した上記の極小法人は、10期目位にして初調査がありましたが、
    新人さんの研修みたいなサラっとしたもので1日でおわりました。

    関西の税務署員は、調査でいくら徴収したかで評価され、
    関東のそれは、徴収がなければ指導が行き届いているとして評価される。
    なんて話も聞いたことあります。
    この辺りはどうなんでしょうかね?

    あと役員報酬についてですが、税金が多くなりすぎない常識的範囲で設定し、
    会社が赤字なれば事業主貸付をしてしまうのが楽かと。
    黒字になれば返済、溜まり過ぎた場合、報酬を減額して調整してます。