ちょっと前に夢の熟睡成分として「グリシン」について調べた記事を書きました。
その中でグリシンを効率よく摂取するにはサプリを活用してもいいんじゃない?と書いたのですが、サプリで補給することで起こりがちな過剰摂取の心配とか、そもそもグリシンって安全なの?副作用とかないの?とちょっと気になったので調べてみました。
結論から言うとグリシンは安全
人間の体の20%はタンパク質でできていて、そのタンパク質を構成しているのがアミノ酸です。
アミノ酸には人間の体内で生成できず食事等から摂取しないといけない必須アミノ酸と、自ら体内で生成できる非必須アミノ酸があります。
グリシンっていうのは非必須アミノ酸のひとつなので、人間の体に必要な栄養素として体内で生成されています。
ですので、グリシンの毒性は皆無と言ってよいくらいで、人間の体に害があるというものではありません。
食品衛生法においても、人の健康を損なうおそれがないことが明らかなものとして厚生労働大臣が定める物質とされています。
ではなぜ危険性を指摘する声があるのか?
グリシンの危険性を指摘する声というのは意外とあります。
(「グリシン 危険」とかで検索するとちょいちょいその手のホームページが出てくると思います。)
その理由としては「食品添加物としてよく利用されているから」だと思われます。
グリシンには微量の甘味があり、えびやカニ、ホタテ貝などのコクやうま味成分としても知られています。
また、グリシンにはph調整作用や細菌の発生を抑える「静菌作用」もあります。
(補足:ph調整作用とは、食品を弱酸性に保ち、腐敗や変色を防いで安定させる作用のことです。)
独特のコク・うま味があり、ph調整作用や細菌の発生を抑える静菌作用がありながら、安全性が高いということで、グリシンは多くの食品に食品添加物として使用されています。
コンビニ弁当なんかにもよく使われています。
コンビニ弁当の裏面のラベル表記で、「アミノ酸等」と書かれている成分はだいたいグリシンです。
これが世の中の「食品添加物につきまとうネガティブなイメージ」と重なり、「グリシン ⇒ 食品添加物 ⇒ 危険」みたいなイメージになっている人がいるんじゃないかな?と思います。
過剰摂取実験によるラットの死亡結果
グリシンは危険だ!という人が根拠によく挙げるのが、グリシンの過剰摂取実験によってラットが死亡したという実験結果です。
これは、内閣府の食品安全委員会が出している資料で読むことができます。
グリシンについて、各種評価書等を用いて食品健康影響評価を実施した資料(PDF)
少し引用されていただきます。
急性毒性試験
ラットを用いたグリシンの経口投与による急性毒性試験における LD50(半数致死量) は、約63,340 mg/kg 体重であった。
鶏(白色レグホン)を用いたグリシンの経口投与による急性毒性試験が実施された。
4,000 mg/日以上の投与で、中毒症状を呈し、極度の疲憊、昏睡及び死亡がみられた。
さらに水分の排泄量は減少し、その窒素含量は 4 倍に増加し、プリン濃度も上昇した。腎臓は著しく萎縮した。(参照 3)慢性毒性及び発がん性試験
ラット(F344 系)を用いたグリシンの飲水投与(2.5 及び 5.0 %:1,250 及び 2,500mg/kg 体重/日に相当)による 108 週間慢性毒性/発がん性試験が実施された。
雌雄ともに用量に依存した体重減少、腎乳頭部の壊死が、また雌の 8 %(2.5 %群)及び6 %(5.0 %群)に腎盂乳頭腫が認められた。
NOAEL は設定できなかった。(参照 3、4、5)
これだけ読むと、「マジで!?グリシン超危険じゃん!」と思うかもしれません。
ですが、投与量をちゃんと見ると、とんでもない量の過剰摂取実験であることが分かります。
人間で1日に必要なグリシンの摂取量は3,000 mg/日とされています。
人間よりもはるかに体重の少ない生き物に4,000 mg/日以上投与しているわけです。
そりゃ死ぬよ・・・って感じです。
この資料でも、以下のようにグリシンは安全であると結論付けられています。
動物に投与されたグリシンは、細胞内タンパク質の連続的な代謝に利用され、グリシンが過剰になったとしても、動物体内で代謝され、蓄積されることはないことから、食品を通じて動物用医薬品及び飼料添加物由来のグリシンをヒトが過剰に摂取することはないものと考えられる。
~~中略~~
以上のことから、グリシンは、動物用医薬品及び飼料添加物として通常使用される限りにおいて、食品に残留することにより人の健康を損なうおそれのないことが明らかであるものであると考えられる。
ソルビン酸、グリシン、酢酸ナトリウム、重曹、食塩のLD50(半数致死量)の表
– | ソルビン酸 | グリシン | 酢酸ナトリウム | 重曹 | 食塩 |
急性毒性(半数致死量) | 7.4~12.5g/kg | 7.9g/kg | 3.5g/kg | 4.3g/kg | 4.0g/kg |
(単位:物質重量g/ラット体重kg)
引用元:安全性はどのように評価・管理されているか|食品添加物の安全性|ウエノフードテクノ
なんでも過剰に摂取すれば害になるということは当たり前ですね。
水でさえ過剰摂取すれば死に至ります。
参考)水中毒|Wikipedia
よくコンビニ弁当やコンビニおにぎりには保存料の表記がない代わりにグリシンが含まれていて、グリシンは安全性が高い物質ですが、多量摂取でラット等が死に至ることもあります!なんて書いてある記事や本があったりしますが、そんなことを言い出したら、味噌汁には食塩が含まれていて、多量摂取で死に至るので、味噌汁は食べてはいけない!と言っているようなものです。
食品添加物等により過剰摂取になる心配はないのか?
過剰摂取すれば害になるということは分かりましたが、では食品添加物としてもよく使われているグリシンによって、意図せず過剰摂取になってしまう心配はないのか?を調べてみます。
通常、食品添加物には安全性を確保するために、1日摂取許容量(ADI)というものが定められています。
ADIとは、人が一生その食品添加物を食べ続けても健康に害がないと認められた1日あたりの摂取量です。
画像引用元:食品の安全に関する用語集|食品安全委員会(PDF)
ですが、グリシンに関しては安全性が高く、体内に蓄積されることもないため、特にADIは定められていません。
グリシンのLD50は、ラットで体重1kgあたり7.9gなので、仮に体重50kgの人間に置き換えてみて、395gを危険水域として考えてみます。
通常の食材による過剰摂取の心配はない
まずは食材で考えてみます。
グリシンを多く含む食品ランキング15
食材 | 可食部100gあたりの含有量 |
ぶた、ゼラチン | 24000mg |
かつおぶし | 3400mg |
小麦たんぱく | 2700mg |
クルマエビ | 2600mg |
湯葉 | 2400mg |
あまのり(ほしのり) | 2300mg |
高野豆腐(凍り豆腐) | 2300mg |
伊勢エビ | 2200mg |
ウニ | 2000mg |
小麦胚芽 | 2000mg |
しらす干し | 1900mg |
ホタテ貝 | 1700mg |
サザエ | 1700mg |
うなぎ | 1700mg |
きなこ | 1700mg |
グリシンをもっとも多く含むゼラチンで100gあたり24gです。
ゼラチンを1kg食べたら240gになるので、ちょっと危険っぽいです。
ゼラチンを1kg食べるなんてもはや狂気の沙汰ですけどね^^;
次点のかつおぶしで100gあたり3.4gなので、かつおぶしを10kg食べたら340gになるので死ねそうですね・・・。
そんな感じなので、通常の食材を通常の量、食べていれば過剰摂取になってしまうことはなさそうです。
コンビニ弁当によるグリシンの過剰摂取の心配はない
次に、コンビニ弁当やコンビニおにぎりなど食品添加物として使われているケースを考えてみます。
ただこれに関してはグリシンには内容量の表示義務はないようで、コンビニ弁当などにどれくらいの量のグリシンが添加されているのかが不明です。
ですので、仮に内容量の1%をグリシンの含有量として考えてみます。
1%とした根拠は、グリシンの静菌作用が効果を発揮するには1%以上の添加が必要だという資料があったからです。
参考)グリシン百科:静菌作用|【有機合成薬品工業株式会社】
コンビニ弁当は多めに見繕って内容量が500gとしても、グリシンは1%で5gです。
おにぎりはだいたい100gくらいなので1gですね。
なので1日3食コンビニ弁当を食べてもグリシンの過剰摂取になってしまう心配はなさそうです。
ただ、コンビニ弁当は野菜不足など栄養バランスの面で問題があったり、グリシン以外の添加物や食塩なども多かったりするので、そっちの方を気にした方がよさげです。
参考)コンビニ弁当の比較テスト結果(商品テスト結果)_国民生活センター
サプリによる過剰摂取の心配もない
グリシンサプリとして有名な味の素グリナの場合、1日当たりのグリシン摂取量は3gです。
通常の食事から摂る摂取量と合わせても1日10gを超えることはないでしょう。
アメリカ産の人気グリシンサプリであるNOW Foodsのグリシン1000mgでも1粒あたり1gで、1日1~3粒が用量とされています。
1ヶ月分を1回で飲むとかおかしなことをしない限り、過剰摂取の心配はありません。
グリシンの副作用は?
いままで書いてきたように、過剰摂取によって、呼吸筋の麻痺などの中毒症状や下痢や嘔吐などが起こる可能性はあります。
ただし、過剰摂取となる量はかなり多い量なので、ゼラチンを1kg食べた上でグリシンサプリを1ヶ月分丸呑みするとかおかしなことをしない限り、過剰摂取になる心配はありません。
ですので、副作用はないと言ってしまっていいでしょう。
そもそもグリシンは薬ではなく、普通に体内に存在するアミノ酸の一種なので。
逆にグリシンが不足すると、不眠や熟眠障害などの睡眠障害が起こったり、関節痛や肌荒れなどの原因になったりするそうな。
ただ、グリシンは非必須アミノ酸で体内で自ら生成できるはずなので、グリシンが欠乏するってどういうこと?ってちょっと思ったりします。
ここらへんどうなんだろ?ちょっと未調査。
また、統合失調症の治療薬であるクロザピンを服用している際に、グリシンを併用するとクロザピンの効果が弱まるという指摘もあるようです。
参考)グリシン | 成分情報 | わかさの秘密
まとめ
以上、グリシンの副作用や安全性、危険性について調べてみました。
結論としては、
『グリシンは安全です。
過剰摂取で危険だ!と言われたりしますが、そんなもんどんな成分・物質でも同じ。
過剰摂取となる危険な量はかなり大量なので、通常の食事やサプリなどで過剰摂取となる心配はない。』
といった感じです。
ただし、先天的にグリシンの分解酵素(グリシン開裂酵素系)が欠損しているという難病があり、その場合は体内からグリシンを排出できず蓄積されていき高グリシン血症を引き起こすことがあるそうな。
正確な患者数は不明ですが、6万人に1人出生し、日本では約100人ほどの患者数がいるとのこと。
重症例は、生後数日以内に筋緊張低下、無呼吸、しゃっくり、昏睡などが始まり、後にけいれん重積となる。人工換気などの治療で新生児期を乗りきると自発呼吸が出てくる。その後、成長は認められるが、精神運動発達の遅れが目立つようになる。
軽症型は新生児期をほぼ無症状に過ごす。乳幼児期にから発達の遅れや筋緊張低下が現れる。成人で診断された例もある。診断の手掛かりとなる特異的な症状を欠くため、多くは未診断のままと考えられる。参考)難病情報センター | 代謝疾患分野 高グリシン血症
かなり稀なケースなので、そこまで気にしなくていいかと思いますが、一応紹介しておきました。
睡眠障害で悩んでいる方はぜひグリシンを上手に摂取して快眠生活を取り入れたいですね!
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